日産ゴーン前会長事件に「トップの任期」を考える

カルロス・ゴーン氏が巨額の役員報酬を有価証券報告書に記載しなかったとして逮捕された事件の概要が明らかになってきた。「ゴーン前会長は約20億円の年間報酬のうち、約10億円はその年に受け取って開示し、残る約10億円の受領は退任後に繰り延べると明記した合意文書を、日産側と毎年交わしていた。繰り延べ分は、金融商品取引法違反の逮捕容疑となった2010から14年度分に、15から17年度分も加えた8年では約90億円にのぼるとみられる」

退任後に繰り延べるとした報酬が妥当かどうかは他の議論に譲るが、少なくともゴーン氏は5年間で約100億円の報酬について「これくらいはもらうべきだと思った。報酬を少なく記載したことについては、高すぎると従業員のモチベーションが下がると思った」として、社員に本当のことを言わなかったことを認めている。

今回の報道で特に気になったのは、西川広人社長が言った「権力の集中、権力の座」という言葉だ。ゴーン氏逮捕後、日産の西川社長は11月19日の深夜に会見したが、会見内容の中で西川社長は「権力」という言葉を再三使っている。

「ガバナンス(企業統治)の問題が大きい。あまりにもひとりに権限が集中していたのが誘因だ。一人に権限を集中しすぎた」

「一人に権力が集中すると、こういうことが起きる、とは言えない。公正にやっている人もいるし、それが原因とはいえない。だが、ガバナンスの面で一つの誘因にはなった。今後はどうやってより公正なガバナンスにするか、どういう形で権力が集中してきたのか、私も考えたが、長い間に徐々に形成されてきたという以上に言いようがない」

「権力の座に長く座っていたことに対するガバナンスと、実際の業務の面でも、弊害も見えてきたというのは、実感している。私が意見したこともあった」

「(ゴーン容疑者)にいつもリポートしている人間が限られてきて、多少間違っていたり、もっと確認しなければいけなかったりすることを、限られたインプットで決定してしまっていた」

西川社長の言うように、今回の事件は本当に権力の座と関係するのだろうか。報道によると、報酬の繰り延べが始まったのは2010年からで、ゴーン氏は1999年に日産のCOO、2001年CEOになっている。権力の座が長期に渡り集中することに対するディメリットは日本を代表する企業経営者が述べている。元キャノン社長で元経団連会長の御手洗冨士夫氏と、元伊藤忠商事社長の丹羽宇一郎氏だ。両氏は自著の中でこう述べている。

「自らの名声にこだわり、おだてられることに慣れたトップは耳の痛い話をする部下を遠ざけるようになる。正確な情報があがってこない組織を作ることになり、ひいては導くべき道を誤って組織を崩壊させかねない」御手洗氏

「人間、3年権力を握ればバカになると、昔から言われているが、これはあながち間違いではない。どんなに自分を諌めてくれと周りにお願いしたって、現実的にはそれはおかしいと、正面きって自分を諌めてくれる人は少なくなる。批判の声がだんだん入らなくなってくる」丹羽氏

「どんな人間にも間違いがあり、ともすれば私心が芽生えて判断を誤らせる」丹羽氏

「トップのあるべき姿として一番あげたいのは私心がないこと」御手洗氏

「行動経済学(2002年ノーベル経済学賞)によれば人間の行動を支配するのに、理性より感情のほうに優位性があるという。トップの座にしてもそこに納まり指示を出していくのは非合理極まりない人間という動物です。したがって、権力ある地位というのは一定のサイクルで交代したほうがよい」丹羽氏

両氏はトップの座から去る時期について「10年で辞めると決めていた」(御手洗氏)、「6年で辞めると決めていた」(丹羽氏)、と述べている。両氏の言葉は、西川社長が言った、「権力の座に長く座っていた」「リポートしている人間が限られた」ことにも通じる。

日本企業ではトップ在任期間がゴーン氏よりも長い人は多くいるが、それは例外的であり、「日本の全上場企業の社長平均在任期間は7.1年で、4年未満がその半数を占めている」

ゴーン氏は「カルロス・ゴーンの経営論」の中でこう述べている。

「熟慮したうえで、自分に正直に、自分の信念に基づいて判断し行動することが、一貫性を維持することにつながります」

「言っていることに一貫性があるとすれば、それは私自身が自然に思ったことを、嘘をつかずに言動しているからです」

どん底にあった日産を1年でV字回復させた功績は疑いもないし、ゴーン氏がいなければ今の日産はあり得ないのは万人が認めるところである。報酬を少なく記載したことについては、ゴーン氏が自身に正直で、一貫性があってのことであり、本当に社員に配慮したからだったのかもしれない。

いずれにしても、トップを縛る(法的な、社内的な)任期を考えさせられる事件ではあった。

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