オリジナル小説 武士の理(ことわ)り 3

隼之助の口調が怒気をはらんできた時、折良くお邦が料理を運んできた。
「二人とも難しい話しはそこまでにしてください」
 わざと笑顔を作ったお邦は、箱膳を持ってくると二人の前に置いた。そしてまた台所に戻ると今度は平膳を畳の上に置いた。
「おう、ぶりの刺身か。うまそうだな」
 進之氶が話題をそらすように言うとお邦もそれに合わせた。
「大根、里芋の煮付けに、からし茄子です」
 進之氶は丸い目を細めた。
「さ、義兄上、いただきましょう」
 隼之助に勧めた。お邦は三つめの平膳を運んできた。湯豆腐、酢たこが乗っていた。
「正月のようだな」
 進之氶は相好を崩すと、箸を付けた。隼之助も膳に向かって手を合わせると箸をつけた。
「義姉さんほどではありませんが、たんと食べてください」
 隼之助はうまそうだ、と言ってぶり刺しを一切れ掴んで口にいれた。
「お邦は器量は悪いのですが料理の腕は確かですよ」
「ひどい言い方」お邦がそう言うと、座は笑に包まれた。
「たしかに。お邦は腕を上げたな」
 隼之助は煮付けを口に入れた。家庭料理から遠ざかっていたので、どれも新鮮に感じた。
「義兄上の部屋は奥の座敷の隣に用意してありますので、遠慮なくお使いください」
 進之氶は徳利を持って酒をすすめた。
「申し訳ない」
 隼之助は猪口で酒を受けながら、なみもこうしてよく酒をついでくれた、と妻を思った。丸髷(まるまげ)にした黒髪が面長の顔によく似合っていた。大きな目に薄紅をひいた唇は整った顔を余計に引き立たせた。義父が隼之助になみと離縁するように言った時、なみはそれを受け入れなかった。目をつり上げて刺すように義父を見ていた。その時のなみの顔を隼之助は忘れなかった。




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