オリジナル小説 暗闇で抱きしめて-『Hold me in The Dark 』人生一睡夢 1

 ねえ誰か、僕の話しを聞いてくれないか。僕の話しはつまらないし、ためにもならない、暇つぶしにもならない。もちろん、聞いても何の得にもならない。
 でも、だれかぼくのはなしをきいてくれないかな。僕の話しはすべてが本当なのかどうか僕自身もわからない。言いたいことは何なのか、そんなこと僕だって知らない。ただ取り留めのない話しをダラダラとするだけなんだ。ただ空に雲がゆらゆら揺れているだけ、枯葉が川面にふらふらと流れているだけ、砂浜に波がすやすやと寄せるだけ、要するにそんなような話しなんだ。
 でも誰か、僕の話しを聞いてくれないかな。そして僕と話しをしてくれないか。

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 50歳を過ぎた今でも、昔の頃の話しを順序立てて話すのは難しいものだよ。話しを始める前に僕が生まれた時代を言っておくよ。僕、沖山幸一(おきやまこういち)が生まれたのは昭和四十三年、白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫が三種の神器って言われていた、そんな貧しい時代さ。
 そうだね、とりあえず幼稚園の頃の話しからはじめようかな。なんで幼稚園からだって?だってそれ以前の記憶は僕にはないからさ。そう、なぜ幼稚園より前の記憶を欠いているのか、わかるかい。記憶機能が十分発達していなかったからだって?ばかなことを言っちゃいけないよ。無意識には時間が存在しないってジークムント・フロイドも言っているだろ。無意識にはいっさい矛盾もなければ、抑圧もないから不可能なものはない、全て肯定される、だから時間なんてないんだよ。逆に言えば、抑圧されたと感じる時から時間が始まって記憶も生まれるんだよ。僕はそれが幼稚園の時だったんだ。そう、記憶が始まる頃と裸でいることが恥ずかしいって感じ始めた時期はだいたい一致するんだ。だからきっと君の記憶も、裸が恥ずかしいって考える頃、つまり抑圧が始まるころから始まるっていると思うよ。
 
 話しがそれちゃったけど、幼稚園児の頃は酷かった。店でガムやチョコレートをちょっとポケットに入れたり、噛んでるガムを本屋においてある本に貼り付けたり、八百屋に並んでいる野菜を少しかじって、かじったところを下にして置いたりしてた。それが見つかると、いつもごめんなさいって泣き真似をしていたよ。殊勝な顔をして謝れば、大人は許してくれると知っていたからね。ずる賢い子どもだったんだ。
 僕は毎日隣で飼っている犬の頭を一発小突いてから幼稚園に出かけ、幼稚園では相手まわず喧嘩をしかけては泣かせたりしてた。あぁ、相手かまわず、はちょっと違ったかな。弱い相手を見つけては泣かせたりしてた、だから相手はたいてい僕より背の小さい男のおや女の子だった。なぜって僕は背も高くなく、どちらかと言えば小さな痩せっぽちだったから、強い相手には喧嘩なんてできはしないさ。卑怯なんて言ってもらっちゃ困るよな、今日日(きょうび)、大人なんて似たようなもの、いや幼稚園の頃の僕よりももっと酷いじゃないか。
 ある日幼稚園でおしっこを漏らしてしまった子のパンツを先生から取り上げ振り回してたら、パンツが先生の顔に飛んでいっちゃった。それを見て大笑いしたら、さすがに痛いげんこつをもらったよ。折り紙の時間は教室を駈けて回ったり、昼食の時間は友達の弁当のおかずを片っ端からつまんでみたり。




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