オリジナル小説 暗闇で抱きしめて-『Hold me in The Dark 』人生一睡夢 7

拓也のお母さんは「一応」僕の家まで送っていってくれた。僕は父が家にいることだけを祈ってた。父がいなくて家に入れなかったら、拓也のお母さんに申し訳ない、というより嫌な顔をされるんだろうなって思ったからね。幸運にも仕事から帰ってきたばかりの父がいてくれたのは嬉しかった。拓也のお母さんは、仕事があったんですが子供が心配で迎えに行ってきましたって、親父に皮肉を言ってたっけ。親父は、どうも、ってだけ挨拶すると僕を部屋に引き入れた。父は僕のプチ逃避行について、何も言うことはなかった。僕はこのことについて叱られたくはなかったけど、何か言って欲しかった。迎えに来なかった理由もね。僕はその時、親父は僕にまったく関心がないなんて思わなかった。僕のことが好きだったんだけど、僕にとてつもなく関心があったんだけど、のっぴきならない用事があったんで、迎えに来られなかったんだって思い込んでいた。いや、思いこもうとしていたんだ。でものっぴきならない用事なんてないのは、親父のそばにあるパチンコの景品を見ればすぐにわかった。でも、景品袋から転がり出ているタバコが憎くても親父自体を憎むことはできなかった。その時は、きっと、父親に愛されていない現実なんて認めることができなかったんだと思う。

 そう、親から虐待されていた人が子供を産むと今度は自分が子供に対して虐待を始めることが多いってことはよく言われるよね。一見矛盾しているように思うけど、実はそうじゃないんだよ。自分が親から暴力を振るわれていたのは、虐待でなく愛されている行為なんだって親の行為を正当化する。子供に優しく接することができないのは、もしそうすれば、なぜ自分は幼い時に優しくされなかったのかって疑問にぶつかってしまうからね。もし優しくしてうまくことが運んでしまったら、自分も優しくされるべきだったのにそうされなかったのはなぜなんだって苦しい疑問にぶつかっってしまうんだよ。だから愛されていないんだってことに目をつぶってしまう。そして、その苦しさを逃れるために自分にされた虐待を正当化して、虐待し続けるんだよ、悲しい話しさ。ま、そんなわけで、その事件があってからはしばらくじっとしてたっけ。




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