オリジナル小説 暗闇で抱きしめて-『Hold me in The Dark 』人生一睡夢 6

拓也は僕が動こうとしなかったので、同じように膝を抱えてずっと海を見ていた。何時間経ったんだろう。あたりが暗くなり始めてもうサーファーもいなくなった。僕たちは立ち上がると、元来た道を帰ろうとした。そう、帰ろうとしたんだけど、どこから来たかをわからなくなってしまったんだよね。駅から一本道だったんだからその道を探して逆にいけばいいだけだったのに、暗くなってしまったからその道がわからずに、周りをうろうろしてしまった。僕は拓也に
「海に向かって歩いてきたんだから、海と逆に歩けば駅につくよ」
 そう言うと海を背にした道を見つけると歩き出した。元来た道とは違ったのはわかってはいたんだけど、方向的には合っているので歩けば駅には着くだろうと思っていた。でも三十分以上歩いても駅は見えてこなかった。
 運が良いのか悪いのか、前から来たパトカーが僕たちを見つけると、Uターンして僕らのそばに停まった。パトカーから女性の警官が二人出てきた。太ったおばさんと若い綺麗な人だった。
「僕たちどこまでいくの」っておばさんが声をかけてきたんだ。
 僕は昼間駅員に言ったようにおばあちゃんちって言おうとしたんだけど、きっとそんなこと言ってもバレちゃうんだろうなって思った。僕も拓也も黙っていると
「ちょっと、話しを聞かせてね」
 と優しい言葉で僕たちを「逮捕」すると、パトカーの後ろの席に乗せた。パトカーのシートはふかふかだったけど、湿気を含んだ汗くさい臭いがしたことを覚えてる。
 そこからは、想像のとおりさ。交番に着く頃になると僕はすっかりあきらめて、小学校の名前、先生の名前、家の住所、父の名前、仕事、全部「白状」してしまった。結局、家出みたいなことになって、親に迎えに来てもらうことになってしまった。あたりはもう暗くて時計を見ると七時を指していた。
「お腹すいたでしょ」
 そう言ってもう一人の若い女性警官が僕たちにおにぎりを出してくれた。おにぎりが海苔に包まれていた。小さなおにぎりだったけど、本当にうまかった。今でも、あの時より美味しいおにぎりを僕は知らない。そう、梅がちょっとすっぱかったな。
 一時間後にやってきたのは、拓也のお母さんだった。拓也のお母さんは何も言わずに拓也を抱きしめると手を引いて帰ろうとした。僕は一人でその後ろ姿を見ていると、拓也が振り返って、「幸一くん」って呼んだんだ。拓也のお母さんはいぶかしげに僕を見てた。女性警官は僕の父親に連絡がつかないことをお母さんに言うと、僕も一緒に連れて帰ってくれないかと頼んだ。
「いいですよ」
 拓也のお母さんは僕を見ると、ボソッとつぶやくように言った。僕が歓迎されていないことは表情でわかった。子供ってのは、大人の考えているよりも何倍もの速さで周りの空気を感じるんだよ。警官が面倒な子を早く始末したいこと、預けられた拓也のお母さんは面倒なことを頼まれたってことも、そして拓也が自分だけ迎えに来てもらってすまない気持ちになっているってこともね。
 僕はお母さんに手を引かれている拓也のことを見ていた。僕の手が誰にも引かれていない理由を探してたんだけど、ネガティブなことは考えなかった。考えたくはなかったんだろうな、その時は。




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